日本人初の100m9秒台を後押ししたトレーナー

甲子園球児からやり投げに転身した
アスリートを後押し

パラアスリート・トレーナー安田真奈先生(日本福祉大学非常勤講師)

白球をやりに持ち替え2年目にして銀メダル

 毎週金曜日の放課後、日本福祉大学(愛知県美浜町)で一般体育を教える非常勤講師・安田真奈さんは、同大陸上部の部室を訪れる。一人のやり投げ選手と向き合うためだ。
 選手は高橋峻也さん(経済学部3年)。右腕に障がいがある彼は、小学生の時、父親との特訓によって、捕球した左のグラブを時に外し、左手で送球するという「グラブスイッチ」の技をマスター。高校3年の夏には、境高校(鳥取)のメンバーとしてベンチ入りを果たし、甲子園の土を踏んだ。
「大好きな野球で甲子園に出場したい」。そんな幼いころからの夢を実現させた高橋さんは今、白球をやりに持ち替え、次なる夢の舞台として東京2020パラリンピック出場をめざしている。
 やり投げを始めたのは高3の12月からだったが、成長著しく、日本パラ陸上競技連盟の理事長にして同大陸上部監督である三井利仁スポーツ科学部准教授の指導のもと、大会に出場するたびに自己記録を更新。2018年5月に北京で行われたBeijing 2018 World Para Athletics Grand Prixでは見事銀メダルに輝いた。
 まさに順風満帆の競技生活を続けていたわけだが、同年の夏、ひじを骨折してしまう。しばらくは腕を使えない。復活へ向けて、身体に無理なく、パフォーマンスの復調と向上を実現させるべく、ケアする役を任されたのが安田さんだった。

動かない部位をかばう動く部位のケアが大事

 安田さんは、スポーツの名門・中京女子大学(至学館大学)の大学院を卒業した後、中和に入学。本科で、あん摩マッサージ師と鍼灸師の資格を取得した。
「私は中学から現在までずっとバスケットボールをやってきました。自分自身、何度かケガをしてきた経験から、ケガをした後も、ケガをする前も、ちゃんとケアできる人になりたいと思い、中和に入りました。手に職をつけたいという気持ちもありました」
 中和では1つ、忘れられない思い出があるという。
「3年生の時、バスケの練習中に半月板損傷の大怪我をしてしまったのです、もともと前十字靭帯断裂の経験があったので、手術をしないといけなくなり、大変なことになりました。国家試験がもうすぐなのに、実技ができない。焦りましたね。
 ただ、クラスメートにとっては、実際のケガ人を相手に実技の実習ができるので、いい経験になったみたいです(笑)」
 ケガを乗り越え、国家試験に合格。日本福祉大学の非常勤講師に採用されたのが2018年の4月。同年冬、多忙な三井准教授に代わり、ケガが治った高橋さんのスポーツトレーナーをすることになったのだった。
「骨折が治り、ドクターからOKが出て練習再開したころから見始めました。問題は、筋肉が落ちたとか痛みがあるとかいうよりは、投げる怖さがあること。彼は休んでいる間、ひじを使わずに、患部以外をトレーニングしていたので、まずはそこの負荷を落としてあげることに重点を置きました。
現在のケアのポイントは2つあります。1つは、右腕が動かない分ものすごく負荷がかかっている左腕のケア。筋肉のバランスが悪いんです。もう1つは、足。やり投げというと皆さん、腕に疲労がたまる競技だと思われがちですが、実は想像以上に足にきます。なので、足の疲れをほぐして、動かしやすくしてあげることが一番重要なんです。種目・競技が違えば使う筋肉も違うし、障害の状態によっても、ケアの仕方は変わります。そこは健常者以上に個別対応が求められるところです。
まあ、高橋さんは大学生なので、体のことは自分である程度わかっていると思います。
なので毎回、まずは今一番どこがしんどいかとか、練習量はどれくらいという話をしながら、ケアしています。やはり気になるところは、練習量やメニューによって違ってきますから。
 基本的にはマッサージがメインです。全身をマッサージしながら、身体の状態を診ていきます。
 彼は毎週末、結構重ダルイ感じで来るんですが、マッサージが終わった後、『どう? 腕動かしてみて』というと、『動かしやすいです』って笑顔で帰っていくので、それが一番うれしいし、やりがいですね」

将来は女子アスリートのトレーナーもしてみたい

 中和を卒業して2年目の安田さんの一週間は、3日間は大学での授業、2日間は高齢者施設で訪問マッサージ、週末は中学のバスケ部で指導…といったローテで過ぎていく。
「スポーツトレーナー専門で生きていくというのはなかなか難しいと思います。アスレティックトレーナーの試験は受けていないですし。でも、やりがいのある仕事なので、今後も続けたいと思っています。
今、もう一人、女子のやり投げ選手のトレーナーも請け負いました。女性アスリートの後押しはぜひやりたいです。将来的には、バスケットチームのトレーナーもしてみたい」
 明るくも、控えめな口調で語る安田さん。目の前の課題にひとつひとつ、真剣に取り組むことで、夢も少しずつ具体的になっていくのだろう。春になり、陸上競技シーズンが開幕して、ケガから復帰した高橋さんが活躍する日を楽しみに待っている。

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