薬を使わずに患者さんの苦痛を取り除く

薬を使わずに患者さんの苦痛を取り除く

木全健太郎先生(柔整科教員)

患者さんが発するサインを見逃さない

 木全健太郎先生は中和の柔整科の教員だ。

 「私は中和出身なのですが、在学中に学んだ恩師に憧れて、中和の教員になりました。機械や薬を使わずに患者さんの苦痛を取り除く医術は素晴らしいと感動したのがきっかけです。私もあの先生のように、鍼灸や柔整などの素晴らしさを、継承できる教員になりたいと思いました」

 教え方のコツの1つは「ギャップ」の活用だ。
 「自分が想像もしなかった結論に至る、ギャップが楽しい症例の話は学生の食いつきもいいし、教えたいことが頭に残るので活用しています。
 一例を挙げると、ある時、ひざが痛いと言う中高年の男性患者が来たが、本人には特別痛くなるような心当たりがない、転んでもいないし、つまづいてもいないし、ぶつけてもいない。急に痛くなったからみてほしいという。私はどうしたか。それはおかしいので、近くの病院で検査するよう勧めました。すると、彼は痛風だということが判明しました。
 この話をしたとき、学生は皆、ひざの何が悪いんだろうと考える訳ですけども、実際には想像を超えたような結論が出てきました。すると学生は、そんなこともあるんだということになりますし、そういう症例に将来遭遇しても、先生があのとき言っていたあれね、ということで印象に残るでしょう。患者さんの言葉は、重要なサインです。引き出しを多く持って、あらゆる可能性を考えられるようになって欲しいんです」

安心させ、患部への負担を軽減し、日常生活指導もする

木全先生が思う柔整の最大の魅力は、手術や薬使わずに、患者さんの苦痛を取り除くことにある。
 「痛みとひとことで言っても、いろいろなタイプがあります。同じ、ぶつけた、ひねったという痛みでも、痛みに敏感な人もいれば、おおらかな人もいる。神経質な人とか、気が小さい、初めてケガをしたような人は、不安からでしょう、たいしたことない痛みのはずなのに、すごく強く痛みを訴えます。反面、運動をやっていて、ケガをすることに慣れているような場合、結構重症なのにケロッとしていることもある。
 なので臨床では、無駄に痛みを増幅させないように、患者さんを安心させてあげるよう努めます」
 痛みには、急性痛と慢性痛があり、柔整の患者には、ケガが治ったにもかかわらず痛みが消えない慢性痛を訴える人が多い。
 「最初は限られた場所をぶつけたり、ひねったりしたことで起きた損傷による痛みなんですが、そこをかばって動かさないことによって、まわりの部分に負担が広がって行くことがよくあります。一か所だけ痛かったのが広がって、たとえばひざだけだったのが、腰も痛くなる。さらに反対側のひざも痛くなるということもありますので、我々としては、できるだけ早く、治癒に導いていくことが肝心です。
 そのために、我々は治療の一環として患者さんに協力をしてもらいます。これはやらないでね、これは毎日やりましょうねといった感じです。お医者さんだったら注射をしたり、服薬指導をしたりするところですね」
たとえば、患者数が多い腰痛の場合には、どういう治療をするのだろう。
 「腰に負担がかかるような、原因を取り除くか、逆に腰を安定させてあげるような場所を強化します。たとえば腰なら、骨盤の上にのっていますよね。骨盤の周辺の筋肉が硬い、骨盤が傾いている姿勢がおかしいという場合には、その骨盤の向きを整えてあげるような、固定の方法をとります。一般的には腰にコルセットをまいたり、テーピングをしたり、あとさらしを撒くと言う方法もあります。
 治療中の日常生活の注意点は、腰痛のタイプによって異なります。苦痛はあっても動ける人には、できるだけ日常通りやってもらうようアドバイスしますが、動くことで不快な痛みが出るような場合は、さらに痛みを悪化させる可能性があるので、避けてもらう。そうした見極めも、柔整師の技量のひとつです」

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